「世界で最も美しい炭鉱」とも称されるドイツのエッセンにある世界遺産、ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群を見学しましたので、見どころなどをご紹介します。
なお、日本語では「ツォルフェライン」と表記する場合もあるようですが、この記事では「ツォルフェアアイン」で統一します。
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群について
基本情報
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群は、ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州のエッセン市で1840年代から1986年まで約140年にわたり操業していた、複数の炭鉱および関連施設・工場の総称です。
19世紀末から20世紀前半にかけてルール地方で石炭・鉄鋼業が発展するのと同時に、ツォルフェアアインの炭鉱は規模と産出量を拡大し、ドイツ最大規模の石炭採掘およびコークス製造拠点に成長しました。
ツォルフェアアイン炭鉱がユニークなのは、この時期に建てられた施設が技術的・機能的に最先端だっただけでなく、そこに芸術性をも融合させるという、当時影響力のあったバウハウスの考えを取り入れていたことです。2本の長い足で立つ姿が有名な第12採掘抗が、その最たるものと言われています。
最盛期には年間360万トンの産出量を誇ったツォルフェアアイン炭鉱ですが、20世紀後半にヨーロッパで石炭・鉄鋼業が衰退したのに伴い、1986年に操業を停止。併設のコークス工場も1993年に役目を終えました。その後は州政府が跡地を買い取り、産業遺産として保護・整備しつつ2001年には世界遺産として登録されました。
現在はエッセン市の主要な観光地として人気を集めています。
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群の基本情報は、次のとおりです。
- 施設名称:ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群(Zollverein UNESCO World Heritage Site)
- 住所:Gelsenkirchener Straße 181, 45309 Essen
- 公式HP:https://www.zollverein.de/
- 営業時間:炭鉱・工場跡地は年中無休(24時間開放)。各博物館やショップの営業時間は上記HPを参照。
- ルール博物館:10:00~18:00(12月24、25、31日以外は無休)
- レッド・ドット・デザイン博物館:11:00~18:00(月曜定休)
- 入場料:炭鉱・工場跡地は無料。博物館の入場料は施設により異なる(詳細は上記HP参照)。
行き方
公共交通機関で行く場合
デュッセルドルフ中央駅(Düsseldorf Hbf)からRE6や各種ICEなどエッセン中央駅(Essen Hbf)に停車する電車に乗り、エッセン中央駅から路面電車107番に乗り換えて「Zollverein」駅で下車し徒歩数分で到着です。所要時間は約1時間です。
ケルン中央駅から行く場合も、RE1などでエッセン中央駅まで行ってからは上と同じです。所要時間は約1時間半です。
車で行く場合
デュッセルドルフ市内からツォルフェアアイン炭鉱業遺産群までは、車で40~50分です。無料の駐車場が複数ありますが、ほとんどの人はメイン施設が集まっているAゾーンから見学を開始すると思うので、A1またはA2の駐車場を利用することをおすすめします。
施設の全体像
3つのゾーンの概要
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群はとても広大で、下記の地図のとおり大きく分けてA、B、Cの3つのゾーンに分かれています。
Aゾーン
Aゾーンは、地下の石炭の採掘と選炭*を行っていた施設などがあった場所です。ツォルフェアアインのシンボルとも言える第12採掘抗(Schacht XII)やルール博物館など、メインの観光施設がここに集まっています。
*選炭とは、採掘した石炭から不純物を取り除き、用途別にサイズ・粒度ごとに仕分ける作業のことです。
Bゾーン
Bゾーンには、一連の炭鉱施設のうち最初に建てられた第1採掘坑があるのに加え、日本人建築家が設計したデザイン学校や炭鉱をテーマとしたホテルなどがあります。
Cゾーン
Cゾーンには、主にコークス工場(Kokerei)と関連施設・機械が残っています。
ちなみコークスとは、石炭を高温で蒸し焼きにして硫黄やアンモニアなどを取り除き、純度の高い炭素のみを残した燃料のことです。コークスは普通の石炭よりも高温で燃えるため、製鉄に使われます。
操業当時の流れとしては、A/Bゾーンで石炭を採掘・選炭し、Cゾーンに運んでコークスに加工後、周辺のルール地方の製鉄所に出荷していたようです。
どこを見るべき?時間はどれだけ必要?
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群はとても広くて見どころがたくさんあり、全てを見学するには丸一日が必要かもしれません。
一方で、代表的な採掘抗や建屋、機械・設備をひと通り見て雰囲気を味わうという目的であれば、Aゾーンだけを観れば充分かと思います。所要時間はルール博物館の見学を入れて2時間もあれば大丈夫です。博物館のツアーに参加する場合は、プラス一時間程度かかります。
コークス工場(Cゾーン)も観たいのであれば、さらに1時間半程度が必要だと思います。
Bゾーンは、観光という視点からは正直言ってこれといった見どころはないと思います(個人の意見です)。「ツォルフェアアイン炭鉱の全てをコンプリートしたい」というガチ勢以外は、パスしてもいいかと思います。
Aゾーン(メイン施設)を見学 第12採掘抗とルール博物館など
第12採掘抗
駐車場から入場しても路面電車の駅から来ても、まず目にと飛び込んでくるのは圧倒的な存在感でそびえたつ第12採掘抗です。
これぞドイツという感じの重厚なメカ感とアート作品のようなポップさも感じるデザイン、そして役目を終えた建築物特有の退廃的な雰囲気が融合しています。見事というほかありません。
この特徴的な2本足を持つ立坑櫓は1932年に稼働を開始し、地下で採掘した石炭や作業員、採掘器具などを運んでいたとのことです。
ルール博物館とパノラマビュー
第12採掘抗の隣には、かつて選炭場として使われていた巨大な建物があり、現在は「ルール博物館(Ruhr Museum」として使用されています。
博物館について
ルール博物館は、ルール地方全体の歴史、文化、経済、自然などを総合的に展示・解説したもので、正直言ってツォルフェアアイン炭鉱には直接関係ない内容も多いです。
なので、ツォルフェアアイン炭鉱が目的で訪れた場合は「肩すかし」を食らう可能性もありますが、博物館の入場チケットには「パノラマ(展望)エリア」へのアクセスも含まれており、眺望が素晴らしいので、多くの訪問客が博物館のチケットを購入しています。また、展示内容そのものは別として、博物館の建物内に数多く残されている設備や機械は見ごたえ抜群です。
最も基本的な「常設展チケット(パノラマ付き)」は大人一人10€で、18歳未満の子供と25歳未満の学生は無料です。パノラマエリアだけのチケットはありません。
この他にも特別展のチケットやガイド付きのチケットも複数あるので、詳細は公式HPを参照してください。
なお、ガイドはドイツ語が基本ですが、英語ガイドの枠もあるようです。ただし、日によってはドイツ語ガイドのみを提供している場合もあるようです。私が訪れた時もドイツ語ガイドのみでした(結局参加せず)。
展示の内容
ルール博物館の建物には、巨大なエスカレーターに乗ってアクセスします。
オレンジ色の長いエスカレーターで24mの高さまで上がります。
到着した先の左手がチケット売場、右手がルール博物館の入口になっています。建物の内装は選炭工場時代のものを多く残しているので、廃工場らしい雰囲気が漂っています。
一つ一つの設備がどのような役割持っていたかは分かりませんが、廃墟・廃工場好きにはたまらない光景が広がっています。
こちらは石炭を運んでいたコンベアーでしょうか。
博物館の入口でチケットを見せて中に入り、オレンジ色に光る階段を降りていきます。溶鉱炉をイメージしているらしいです。
降りた先が常設展の会場になっていますが、あちこちに重厚長大な工場設備が残されています。
ルール地方の歴史や文化に関する展示物よりも、こちらの方に目がいってしまいます。
これらの機械設備も展示物の一部という位置付けで残しているのか、あるいは単に撤去費用がかかるから放置しているのか分かりませんが、とりあえずその迫力に目を奪われます。
一応展示物も少し紹介すると、こちらは1960年代ごろに炭鉱労働者の住宅で使われていたキッチンです。
こちらは移民労働者向けの住宅で使われていたベッドです。かなり粗末な感じです。
屋上展望からの素晴らしい眺め
ルール博物館を見学した後は、パノラマ(展望)エリアに向かいました。一度チケット売場の階に戻ってから、売場の奥の方にある階段を上っていきます。パノラマへの順路にも、味のある設備がたくさん残されています。
地上45mの屋上に着きました。ここからは、第12採掘抗の全体像が見えます。下から見上げるのとは、また違った印象です。
先ほど上がってきたエスカレーターも見えます。
反対側にはCゾーンのコークス工場が見えます。
施設と施設の間には緑が多いのもドイツらしい風景だと思います。天気が良い日はかなり遠くまで見渡せるので、おすすめです。
カフェ
ルール博物館の建物には、チケット売場のすぐそばにカフェがあります。
こちらではビールやコーヒーなどの飲み物に加え、ソーセージやパン、フライドポテトなどの軽食を食べることができます。
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群の食事処としては、他にもルール博物館前の広場に面したレストラン「The Mine」、第12採掘抗の足元付近にある「Bistro Schacht XII」、そしてCゾーンの「die Kokerei」があります。
レッド・ドット・デザイン博物館
AゾーンのA2駐車場付近には、かつてボイラー室として使われていた赤レンガの建物があり、現在は「レッド・ドット・デザイン博物館」として使用されています。
この博物館には、国際的なプロダクトデザイン賞である「レッド・ドット・デザイン賞」の受賞作品が展示されています。なお、こちらの展示物もツォルフェアアイン炭鉱とは特に関係ないので、工業デザインに強い興味がある方以外はパスしても問題ないと思います。
入場料は大人一人9€ですが、毎週金曜日はいくら払うかを自分で決められるというユニークな取り組みをしています。12歳未満の子供は無料です。
以下、展示内容を簡単に紹介します。
入口付近に吊り下げられているのは、全てアルミで作られているというアウディ車のボディです。
ロボット製品など、日本企業の受賞作品も多いです。
懐かしの初代iMacや歴代iPhoneも展示されてました。
今見るとレガシー感が凄いですが、当時は画期的なデザインだったと思います。私も青色の初代iMacを持っていたので、懐かしいです。
Bゾーンについて
前述のとおり、Bゾーンには観光客にとって特筆すべき見どころが少ないので、私も時間の関係でほぼ素通りしました。
ただ、AゾーンからBゾーンへ続く道の途中で、以下のような子ども遊び場があります。緑に囲まれた気持ちの良い環境なので、お子さん連れの方はこちらに立ち寄るのも良いかもしれません。
なお、AゾーンからBゾーンへは下記写真のように空中廊下を歩いて行くこともできます。Aゾーンにあるレストラン「Bistro Schacht XII」の近くの階段を上ると空中廊下に上がれます。
Cゾーン 廃墟感のある旧コークス工場
Cゾーンは、石炭からコークスを製造するための工場・設備が集まっているエリアです。Aゾーンからは徒歩で15分程度かかります。
本来は、旧コークス工場内を歩いて見学できる歩道もあるらしいのですが、私が訪れた時(2024年9月)はコークス工場一体が工事中で、工場脇の歩道から施設を眺めることしかできませんでした。
それでも、工場跡地の様々な機械や設備を眺めることができて満足でした。こちらはAゾーンからCゾーンをつなぐ空中回廊です。
コークス工場脇の道を歩いていきます。ベルトコンベアーやパイプラインが張り巡らされています。
観覧車のような設備もありました。
コークス製造のどの行程で使われていたのか分かりませんが、見た目は観覧車そのものです。
廃工場の脇は草地になっており、なぜか羊たちの群れがいました。飼育されているのか、野生なのか分かりません。
廃墟となった人類文明の跡地で羊たちが草を食む光景は、牧歌的でありながらかなりシュールです。まるで「人類が消えた世界」のようなディストピア感がありました。
Cゾーンのコークス工場周辺は広い歩道が整備されていて緑も多いので、散歩コースとしてもおすすめです。地元の人たちもジョギングや散歩を楽しんでいました。
まとめ
この記事では、ドイツのエッセン市にある世界遺産「ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群」を2024年9月に訪れた際のレビューと、施設の魅力などを紹介しました。
ツォルフェアアイン炭鉱業遺産群はとても広大で見どころ満載ですが、Aゾーンのメイン施設(第12採掘抗&ルール博物館)だけに絞れば2時間程度で見学できます。
かつてはドイツ最大の炭鉱だったスケールの大きさと重厚なメカニカル感、芸術性が同居した採掘抗や工場は観光施設としても魅力充分です。デュッセルドルフやケルンからも日帰りが可能なので、ぜひ訪れてはいかがでしょうか。
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