ドイツ中西部のヴィースバーデンを家族で訪れた際に、水の重さで動くシンプルかつエコなケーブルカー「ネロベルク登山鉄道」に乗りました。
130年以上変わらない古典的な仕組みで静かにゆっくり山を登り下りするネロベルク登山鉄道は、山頂までの深い緑と街を見下ろす絶景も相まって、とても楽しい乗車体験になりました。
この記事では、ネロベルク登山鉄道の魅力や仕組みなどについてご紹介します。
なお、ヴィースバーデンのラインガウ・ワイン祭りや市内の主な観光スポットを訪れた時の記事は、以下をご覧ください。

ネロベルク登山鉄道について
ネロベルク登山鉄道の概要

ネロベルク登山鉄道(Nerobergbahn)は、ドイツ・ヘッセン州の州都ヴィースバーデン郊外のネロ山にあるケーブルカーで、1888年に開業しました。
仕組みは単純です。最大7,000リットルの水を積載した1台の車両が、その重さで山頂からふもとに下りていくと同時に、滑車を介して鉄製のワイヤーでつながっているもう1台の車両が、重量差でふもとから山頂に引っ張り上げられるというものです。
ふもとに到着した車両からは水が抜かれ、その水をポンプで83m上の山頂まで送ります。そして山頂側の車両に注水後、その車両は水の重みで再びふもとに下りていき、同時にふもと側の車両が登っていく、という動作の繰り返しです。
ネロベルク登山鉄道の運行期間は毎年4月から10月までですが(冬季は水が凍結するため)、そのユニークな魅力で観光客や地元住民の人気を集めており、年間30万人以上がネロベルク登山鉄道を利用しています。
基本情報
ネロベルク登山鉄道の基本情報は次のとおりです。
- 正式名称:ネロベルク登山鉄道(Nerobergbahn)
- 住所:Wilhelminenstraße 51, 65193 Wiesbaden
- 公式HP:https://www.eswe-verkehr.de/nerobergbahn.html
- 営業時間:9:00~19:00 (3月末~11月初旬のみ運行)、おおむね15分に1本間隔で運行
- 運賃:大人片道4€、往復6€。子供(6歳~14歳)片道2.5€、往復3.5€。
行き方
公共交通機関で行く場合
ヴィースバーデン中央駅(Wiesbaden Hauptbahnhof)から1番のバスに乗り、終点のNerotal停留所で降りてすぐです。

バスは昼間は10~15分間隔で運行しており、所要時間は約20分です。
車で行く場合
私たちは車で行きましたが、ヴィースバーデンの中心部から10分程度の距離です。ネロベルク登山鉄道のふもと駅の前に、無料の駐車場があります。
余談ですが、ヴィースバーデンは昔から温泉保養地として栄えており、富裕層の別荘がたくさんあります。駅へ向かう途中、車窓からはこのような豪邸が立ち並ぶ光景が目に入ってきます。

ふもとから山頂駅へ
私たちは日曜日の午前8時50分頃に、車でふもと駅に到着しました。駅の入口にはアーチが掛かっています。

始発の車両は午前9時発なので、急いで切符を購入です。切符は券売機または窓口で購入可能で、券売機は英語表示に対応しています。

上の基本情報でも記載したとおり、2024年8月時点の運賃は大人往復6€で、6歳未満の子どもは無料です。
こちらが購入した往復チケットです。

チケットを係員に見せて駅舎に入ると、山頂行きの車両が間もなく出発するところでした。車両のデザインは黄色ベースに青の差し色が入っており、かわいいです。

車内はこのようになっており、普通のケーブルカーという感じです。

車両の先頭に屋外デッキがあり、走行中にデッキに出たままでもOKです。うちは息子が「おそとがいい」と言うので、デッキで立ったまま出発を待ちました。

始発ということもあって乗客は私たち以外に2組だけでしたが、ネロベルク登山鉄道は登りで最大40名、下りで最大50名の乗客を輸送できるとのことです。
間もなく運転士さんがやってきて、ケーブルカーの車両はコトコトと音を立ててゆっくり斜面を登り始めました。約3分半の短い旅の始まりです。

ネロベルク登山鉄道のレールは3本が敷設され(すれ違い区間のみ4本)、1台の車両が右側と中央のレール、もう1台の車両が左側と中央のレールをそれぞれ使用しています。

レールは全長438.5m、幅1,000mmなので、レール幅は日本の在来線とほとんど同じ(1,067mm)ですね。
山頂駅の海抜は241mでふもと駅とは83mの高低差があり、平均19.5%の勾配を時速7.8kmでのんびり登っていきます。季節が夏ということもあり、鮮やかな緑と爽やかな風が心地良いです。

後ろを振り返ると、ヴィースバーデンの高級住宅地が良く見えます。お城のような邸宅もちらほらありますね。

視線を下にやると、レールの機構が見えました。右側のレールの隣にあるのはケーブルで、これがもう1台の車両とつながっています。

また、両レールの間には段々になっているラックレールがあり、これが車両側の歯車と噛みあうことで、ブレーキとして機能するようです。下りの車両では、運転手がブレーキ(歯車)を操作して速度を調節します。
車両はいつの間にか山の中腹に差し掛かり、山頂から下ってくる車両とのすれ違い場所に近づいてきました。ここではレールが4本になります。

下りの車両には乗客が誰も乗っていません。始発で山から下りてくる人はいないでしょうからね…。

ちなみに上の写真で運転手が握っているのがハンドブレーキです。このスティックを操作することで、車両側の歯車とラックレールとの噛みあい具合を調節し、スピードをコントロールするということです。
すれ違いを終えてしばらくすると、山頂駅が近づいてきました。到着した車両に水を入れるための注水口が待ちかまえています。

車両が徐々に近づいていき…

注水口とドッキング完了です。

同じタイミングで、ふもと駅に到着した車両からは水が抜かれ、電動ポンプで山頂まで送られてきます。その水が全てこの車両に積まれるまで時間がかかるので、折り返しの下り方面は10数分後に出発です。

山頂駅もシンプルでこじんまりとして作りです。朝一なので待合客は誰もおらず、閑散としていました。

ネロ山の山頂 待ち時間に散策がおすすめ
せっかくネロ山の山頂に来たので、周囲を散策してみることにしました。
駅舎を出てすぐ左手に、大人の背丈ほど
の直径がある巨木の切り株がありました。

長さも20mほどあり、幹が避けている部分は子供が中に入れるほどの大きさでした。

先に進むと、モノプテロスと呼ばれる円形の展望ドームがあります。1851年に建てられたということなので、ネロベルク登山鉄道よりも古いですね。

その先には、ロシア正教の黄金の教会が見えました。

ドームの近くには、ローマ統治時代の古代劇場もありました。規模は小さいですが、なかなか趣があります。

古代劇場の脇にはレストランがあり、テラス席で食事を楽しむこともできるようです。

山頂からふもと駅へ
散策を終えて山頂駅に戻り、下りの車両に乗り込みました。今回も息子の要望により、デッキに陣取ります。

山頂駅を出ると、すぐに素晴らしい眺望が目に入ってきます。たった3分半でふもとに着いてしまうのがもったいなく感じるほどの絶景です。

反対側から登ってくる車両とすれ違いです。今度は乗客を満載して、デッキまで人で溢れてますね。

あっという間にふもと駅が近づいてきました。

ちなみにふもと駅近くの区間はアーチ橋になっており、下から見るとこのようになっています。

ふもと駅に到着しました。車両の下部からは、「ザー」という音と共に勢いよく水が排出されていきます。

前述のとおり、排出した水を山頂に送るために電力(電動ポンプ)が使われていますが、2台のケーブルカーの運行自体は完全に水の重さだけで行っており、水も再利用しています。
ネロベルク登山鉄道は、かなりエコな乗り物だと言えそうです。
博物館もある
ふもと駅の脇には小さな建屋があり、「ネロベルク登山鉄道博物館」として一般に開放されています。

なお、この建屋は元々は公衆トイレだったようですが、2000年に改修されて博物館としてオープンしたとのことです。
博物館ではネロベルク登山鉄道の歴史や、車両が駆動する仕組みなどが詳しく解説・展示されているほか、車両の模型もありました。

こちらは開業当初の様子です。

なんと、日本の読売新聞がネロベルク登山鉄道を取り上げた時の記事もありました。2003年8月3日付の記事です。

日本語のオリジナル記事だけが展示されているので、来場者のほとんどは内容を理解できないでしょうが、日本人としては日本語の新聞記事があるだけでうれしくなりますね。
まとめ
この記事では、ヴィースバーデンにある水の重さだけで駆動するケーブルカー、ネロベルク登山鉄道に乗車した時の様子と、その魅力についてお伝えしました。
ネロベルク登山鉄道は、日本語の旅行ガイドブックでもほん数行しか触れられていないマイナーな乗り物ですが、その古典的かつエコな仕組みはドイツでも現存する唯一のもので、とても魅力的な体験でした。
ヴィースバーデンはフランクフルトからも日帰りが可能な距離ですので、観光客の方も現地在住の方も、ぜひ一度訪れてはいかがでしょうか。
当ブログには、ドイツ旅行・観光スポットに関する記事が多数あります。地域ごとにまとめてありますので、下記リンクからご覧ください。
ドイツ生活に関する記事はこちらから。